1996年9月初めての体験操縦の日が来た。
この日のために航空無線をワッチして航空用語の耳慣らしをし,フライトシミュレータで練習を
してきたのだ。
朝8時にホテルにスクールから迎えの車がやってきた。
ワイキキにあるホテルから空港までの所要時間は約30分だった。
スクールに到着すると、教官やスタッフがにこやかに迎えてくれた。
校長(President)はパソコンに向かっていたが、私を見て挨拶をくれた。
最初は、座学からはじまった。壁にパイパーのコックピットのポスターが張ってあり、
計器の説明と、スロットルなどの操作説明が行われた。
この座学はフライトシミュレータで見ていたので、何の違和感も無かった。
10時頃に機体の準備が整い、教官と私は,パイパーアーチャー28型の機体に近づいて行った。
教官は日本人だった。一回り機体の目視点検を行った。
教官から「本日は機長席に座っていただきます。」と言われ、
当然コパイ席に座るものだと思っていた私は感激してしまった。
私が教官より先に右側のドアから(右側のドアしか無いが)乗り込み、左の機長席についた。
「あのー前が見えません」座席を調整しても座高の低い(背も低い)私には前がよく見えない。
座席の下に敷くものを持ってきてくれた。
教官も乗り込んで、チェックリストにしたがって、チェックを始めた。
私は、渡されたヘッドセットをつけ、待機していた。しばらくすると。
「さあ行きましょう」という教官の声がした。
何だかヘッドセットから聞こえてくる音に違和感がある。
ヘッドセットの接触不良かと思いプラグを抜き差ししていると、
教官が「どうしました?」と聞くので、「教官の声の最初の一瞬がよく聞こえないんです」と答えると、
「あ、それは周囲の騒音が聞こえないようにコントロールされているからですよ」と教えてくれた。
そういえば、管制塔の無線は正常に聞こえていたなあ。
管制塔と教官のやりとりが聞こえてきた。が、教官の英語は聞き取れるのに管制塔からの英語が聞き取れない!
日本で管制塔の無線を聞いていたときにはちゃんと分かったのに!こりゃいけん!
管制塔からの指示に従って、4R滑走路に向かってタキシングしていく。
機体の進行方向は足でラダーを操作するのだが意外と重い、
それに車ほど直進性が良くないため、結構きつい。それに、地上走行は結構乗り心地が悪い。
滑走路の手前でいったん停止し、パーキングブレーキをかけて管制塔からの滑走路への進入許可を待っていると、
すぐに進入許可出た。滑走路へ進入し一旦停止をするのかと思っていたら、すぐに離陸許可が出た。
スロットルを最大に上げて滑走を開始した。今度は,ラダーがやけに軽い。
教官が、「あ今は私がやってます」と言った。
そうですよね、「離陸なんて初めて操縦する私なんかにやらせてくれるはずがありませんよ」とおもっていたら。
「あなたの操縦が危ないときだけこちらがやりますから操縦桿はちゃんと持ってください」と言われ、
え!いいの?という思いだった。
速度が70ノットを指したとき、「ローテイト」の声が掛かりエレベータをそっと引いた。
機体はふわりと浮き上がった。「エレベータを引きすぎると失速しますから気をつけて」と言われながら、
機体は上昇していく。長年の夢がかなった瞬間だ!これで思い残すことは無いとまで感激した。
上昇率計が5から10の範囲になるようにエレベータをコントロールしながら上昇していく。
意外と左右にゆれる。教官が、エルロンの操作をしてくれているのが分かる。私はエレベータの操作だけでいっぱい。
エルロンどころではない。
このまま上昇を続けてハイウエーの上空に来たらダイヤモンドヘッドの方向に旋回してください。
1500フィートまで上昇しますと指示された。機体速度は約90ノットで上昇していく。
体にGを感じる分シミュレータよりもやりやすい。
水平飛行にはいると、周りの景色を眺める余裕がでてきた。オアフ島半周のフライトだ。
しばらく飛んでいると、管制塔が何か言ってきた。教官から高度が下がってますと注意された
1500フィートの指定高度が200フィート下に下がっていたためだった。
オアフ島のモカプ岬付近で、高度を200フィートにするように指示された。
ノースショア付近からオアフ島を縦断するコースに入った。
パイナップル畑の上を通過し、パールハーバーに向かう。徐々に高度を下げていく。
管制塔から着陸許可が出た。4L滑走路に着陸するようにとの指示。
第3旋回が終わった頃着陸滑走路の変更指示が来た4R滑走路への変更指示だった。
2ノッチのフラップを出しての第4旋回(最終の進入旋回)が終わると、
教官から「いいコースに乗ってますよ」と言われまんざらでもなかった。
フラップを最大にし、エンジンを最スローにして降りていく。
速度90ノットを維持してくださいと言われながら滑走路に向かう。
教官がラダーのコントロールをしてくれているのが分かる。
私はエレベータとエルロンで手一杯、足まで余裕が無い。
もういい頃だと重い機首を起こし始めると、教官から「まだ早い」の声、徐々に引き起こしを始める。
かなり地面に近づいた頃「フレア」の声。機首をぐっと引き上げる。
何だか重い。教官が修正していたのだ。少しドンという感じで着陸した。
手に汗が出ているのが分かる。ズボンに手をこすりながら、指定された滑走路の出口へと向かう。
右折して滑走路を出た。タキシング道路(この呼び方が正しいかどうかは分からない)に入ろうとしたとき、
教官から急ブレーキ!。地上管制からの許可があるまでは入れなかったのだ。
許可が出てスクールの駐機場までのタキシングを終え、エンジンを止め、
教官から「初めてとは思えないきれいなフライトでしたよ」と言われながら、校舎に向かい歩いた。
スクールでは、スチューデントパイロット(Student
Pilot)と書かれた証明書と、
フライトを記入したログブックが渡された。
これは私の宝物になるだろう。
こうして私の初フライトが終了した。
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